平成28年度 特許庁産業財産権制度各国比較調査研究等事業
「日中韓における特許無効審判についての制度及び
統計分析に関する調査研究」報告書
平成28年11月
一般社団法人
日本国際知的財産保護協会
はじめに
企業活動のグローバル化が進む中、日本の企業が海外で特許侵害訴訟に巻き込まれるケ ースが増えつつある。特に特許出願件数が多い米欧中韓が問題となることが多いが、米欧 の制度・運用に関する情報は比較的充実しているのに対し、中韓の制度・運用に関する情 報は不足しているのが実情である。例えば、中韓においては特許権の被疑侵害者が用いる ことができる対抗措置として特許無効審判制度があるが、外形上日本と類似した制度では あるものの、実務的にまだ不明な点が多い。また逆に、日本企業が中韓で保有している特 許権に対して無効審判が請求された場合においても、同様な問題がある。すなわち、現在、 日本企業が中国や韓国において活動するにあたり、特許無効審判制度を有効に活用できて いるとは言い難い状況にある。
ところで、2012年11月7日に行われた日中韓特許庁長官会合において、国際的な知財
を巡る紛争のリスク回避を目的として、日中韓の審判部で意見交換を行う日中韓審判専門 家会合が設置された。これまで毎年開催されてきた同会合を通じ、各国の審判制度の概要 について相互理解を深めてきているところではあるが、無効審判制度に着目すると、実際 に利用経験のある各国ユーザーの目からみた実務や運用面での相違については、各庁とも 未だ十分に把握できていない状況である。
このような状況の下、特に無効審判に焦点を絞り、日中韓それぞれの特許無効審判にお いて当事者となった経験のあるユーザーに関して、国籍別の利用状況とその結果との相関 分析のような多角的な分析を行うと共に、実際のユーザー目線から見た各国制度の使い勝 手や問題点等に関する比較分析を行う調査研究が必要である。
本報告書の作成にあたり、国内外での調査にご協力いただいた企業、法律・特許事務所 の方々にこの場を借りて深く感謝する次第である。
平成28年11月
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
調査にあたっては当該分野に精通した弁護士,弁理士,産業界有識者及び学識経験者に よるワーキング・グループを編成した。ワーキンググループメンバーの弁護士,弁理士, 産業界有識者,学識経験者,オブザーバーの方々及び事務局は以下のとおりである。 【ワーキング・グループ委員】
【座長】
松田 一弘 廣田特許事務所 弁理士
【ワーキング・グループ委員(五十音順)】
河瀬 博之 一般社団法人日本知的財産協会 特許第2委員会 委員長
(中外製薬株式会社)
河野 英仁 河野特許事務所所長 弁理士
宋 イ 北京東方億思知識産権代理有限責任公司東京支所長
中国弁理士・中国弁護士
雙田 飛鳥 北京銀龍知識産権代理有限公司副総経理/日本弁理士
高石 秀樹 中村合同特許法律事務所 弁護士・弁理士
朴 志恩 坂本国際特許事務所 日本弁理士・韓国弁理士
古橋 伸茂 阿部・井窪・片山法律事務所 弁理士
【オブザーバー】
小野 孝朗 特許庁審判部審判課 審判企画室長
佐久 敬 特許庁審判部審判課審判企画室 課長補佐(制度担当)
島田 敏史 特許庁審判部審判課審判企画室 審判決調査員 弁護士
【事務局】
川上 溢喜 一般社団法人 日本国際知的財産保護協会国際法制研究所 所長
南 政江 一般社団法人 日本国際知的財産保護協会国際法制研究所
主任研究員(主担当)
ワーキング・グループ会合の開催は以下のとおりである。
第1回 平成28年6月9日 文献調査結果及び国内ヒアリング(前半)の検討
第2回 平成28年9月7日 (拡大会合)
中国復審委員会及び韓国特許審判院の代表による プレゼン及び質疑応答
ご協力いただいた特許/法律事務所(五十音順,敬称略) 【中国】
中科専利商標代理有限責任公司
中国国際貿易促進委員会特許商標事務所(CCPIT)
中原信達知識産権代理有限責任公司
日高東亜国際特許事務所/日高(北京)諮詢服務有限公司
北京アイピーフェイス知識産権代理事務所
北京銀龍知識産権代理有限公司
北京三友知識産権代理有限公司
北京東方億思知識産権代理有限責任公司(EAST IP)
北京銘碩特許法律事務所
北京ユニ-インテル特許事務所
北京林達劉知識産権代理事務所
Unitalen Attorneys at Law
【韓国】
AJU Kim Chang & Lee
康&康国際特許法律事務所(Kang&Kang)
金&張法律事務所(Kim&Chang)
KBK特許法律事務所
Shin&Kim
特許法人(有)太平洋
崔達龍国際特許法律事務所(D.R.CHOI International Patent Office)
MEGA国際特許事務所
Lee & Ko
特許法人 和友
目次
第Ⅰ部 調査研究概要
1 調査研究概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・i
1 .1 本調査研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・i
1 .2 調査研究内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・i
1 .3 調査研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ii
第Ⅱ部 調査研究結果
1 日中韓における特許無効審判の制度比較・・・・・・・・・・・・・・1
1 .1 日本における特許無効審判に関する制度・・・・・・・・・・・・・・1
1.1.1 審判部の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.1.2 特許無効審判制度の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
1.1.3 訂正の請求について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
1.1.4 口頭審理について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
1.1.5 特許無効審判から裁判までの流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・14
1.2 中国における専利宣告請求(特許無効審判)に関する制度・・・・・・・15
1.2.1 審判部の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
1.2.2 専利無効宣告請求制度の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
1.2.3 専利無効宣告手続における専利書類の補正(訂正)について・・・・・20
1.2.4 口頭審理について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
1.2.5 中国における証拠の提出について・・・・・・・・・・・・・・・・・24
1.2.6 専利無効宣告請求から審判から裁判までの流れ・・・・・・・・・・27
1.3 韓国における特許無効審判に関する制度・・・・・・・・・・・・・・・・29
1.3.1 審判部の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
1.3.2 特許無効審判制度の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
1.3.3 訂正の請求について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
1.3.4 口頭審理について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
1.3.5 特許無効審判から裁判までの流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・42
1.4 日中韓の対比(対比表)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
1.4.1 日中韓における特許無効審判の一般的な制度の対比・・・・・・・45
1.4.2 日中韓における特許無効審判の無効理由の対比・・・・・・・・・・48
1.4.3 口頭審理に関する制度の対比・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
2 日中韓における過去10年間(平成18年~平成27年)の法改正の経緯 ・・・・55
2.1 日本・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
2.2 中国 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
2.3 韓国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
3 特許無効審判に係る統計情報の分析・・・・・・・・・・・・・・・・・73
3.1 特許無効審判に係る統計情報及び分析方法・・・・・・・・・・・・73
3.1.1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
3.1.2 統計分析の概要及び分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・73
3.2 分析内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75
4 海外ヒアリング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91
4 .1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91
4 .2 中国におけるヒアリング調査結果の詳細・・・・・・・・・・・・・93
4.2.1 証拠の取扱いについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93
4.2.2 権利化後の補正(訂正)の制限について・・・・・・・・・・・・・104
4.2.3 口頭審理について(期日・場所の決定、争点整理など)・・・・・・・112
4.2.4 専利権者の権利能力に関する無効理由について・・・・・・・・・・120
4.2.5 その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123
4.3 韓国におけるヒアリング調査結果の詳細・・・・・・・・・・・・・・131
4.3.1 証拠の取扱いについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131
4.3.2 日本の制度(「審決の予告」)との対比について・・・・・・・・・・140
4.3.3 口頭審理について(期日・場所の決定、争点整理など)・・・・・・143
4.3.4 その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・151
5 国内アンケート及び国内ヒアリング調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161
5 .1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161
5.1.1 対象者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161
5.1.2 調査票について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161
5.1.3 結果概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・162
5.2 国内アンケート調査結果詳細・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・163
5.2.1 基本情報・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・163
5.2.2 中国・韓国における特許無効審判の経験について・・・・・・・・・・167
5.2.3 審判請求書の補正について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・171
5.2.4 特許無効審判に関する期間について・・・・・・・・・・・・・・・183
5.2.5 口頭審理について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・191
5.2.6 特許無効審判中の訂正について・・・・・・・・・・・・・・・・・・195
5.2.8 特許無効審判にかかわる際の不安点・・・・・・・・・・・・・・・207
5.2.9 特許無効審判に関する情報の取得について・・・・・・・・・・・・・210
5.2.10 法改正に関する情報の取得について・・・・・・・・・・・・・・・・213
5.3 国内ヒアリング調査結果詳細・・・・・・・・・・・・・・・・・・・215
5.3.1 証拠の提出について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・215
5.3.2 口頭審理について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・223
5.3.3 公平性に関する感想・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・229
5.3.4 考え方の違いについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・232
5.3.5 無効審判と審決取消訴訟との違い・・・・・・・・・・・・・・・・・235
5.3.6 訂正について(中国のみ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・238
6 統計データ及びユーザーニーズを踏まえた、日中韓における無効審判制度のあり方
に向けての基礎となる論点について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・241
6.1 中国における専利無効宣告請求(特許無効審判)について・・・・・・・241
6.2 韓国における特許無効審判について・・・・・・・・・・・・・・・・・245
第Ⅲ部 資料編
1 調査研究概要
1.1 本調査研究の目的
本調査研究は、以下を調査分析することを目的とする。
① 日中韓における特許無効審判制度の枠組みを踏まえた上での、制度の実態及び実務・
運用に対するユーザーニーズの比較調査(無効審判手続における訂正の制度も含め る)
② 日中韓における特許無効審判の結論に関する統計データの多角的分析
③ 統計データ及びユーザーニーズを踏まえた、日中韓における特許無効審判制度のあ
り方に向けての基礎となる論点に関する調査分析
1.2 調査研究内容
(1)調査対象国・地域等
日本・中国・韓国(以下、対象国という。)を調査対象とする。
(2)調査研究の対象項目
対象国の特許無効審判に関する情報について、以下に記載した項目等を調査した。
① 日中韓における特許無効審判制度の実態及び実務・運用に対するユーザーニーズの
比較調査
対象国において特許無効審判制度の法律や基本的な枠組み等を把握した上で、比較分
析(無効審判手続きにおける訂正請求も含める)に関する情報を収集し、少なくとも以 下の観点で比較分析を行った。
・特許無効審判の一般的な制度比較
・各国審判部の体制(組織、特許・実用新案・意匠・商標それぞれの審判官数等) ・特許無効審判から裁判へのフローについての比較
・法律の立法や廃止の経緯(過去10年間)についての比較
・特許無効審判における実際の処理期間(全体・個別手続き)についての比較
・その他、本調査研究の趣旨から、比較分析することが必要であると考えられる事項
次に、対象国において、以下のとおり国内において、アンケートとヒアリングを実施
・対象国それぞれの無効審判に対する日本国内ユーザーからみた使い勝手や問題点につ いてアンケートとヒアリングの項目を作成し、それに基づいてアンケート及びヒアリ ングを実施した。
・対象国それぞれの無効審判に対する中韓ユーザーからみた使い勝手や問題点について ヒアリングの項目を作成し、それに基づいて海外ヒアリングを実施した。
② 日中韓における無効審判の結論に関する統計データの多角的分析
直近10年間(平成18年~平成27年)の特許無効審判の統計データ(審判請求件
数、無効審決の理由、権利が無効になる割合、企業規模・国籍別利用状況、出訴件数 等)を収集し、多角的に分析する。審判での請求成立率・不成立率やその後の出訴率 等の一般的な指標だけでなく、企業規模・国籍別利用状況とその結果との相関分析、 権利が無効になる割合の国籍別分析等、本調査研究の趣旨から有用と認められる事項 や、データ上特異点を有するものについても分析を試みた。
③ 統計データ及びユーザーニーズを踏まえた、日中韓における無効審判制度のあり方
に向けての基礎となる論点に関する調査分析
国内・海外でのアンケート及びヒアリングの結果を踏まえ、対象国における特許無
効審判制度の課題、特徴、利用状況及び改善点等をとりまとめ、さらに統計データの 結果を参考にしつつ、対象国それぞれの特許無効審判制度について評価分析をおこな った。
1.3 調査研究方法
(1)国内外公開情報調査
書籍、論文、調査報告書、審議会報告書、JETRO北京やJETROソウルから公開さ
れている情報、データベース情報(特許庁提供の新興国等知財情報データバンク等)及 びインターネット情報等を利用して、対象国の最新の審判・裁判制度についての情報を 調査、整理及び分析し、結果を日本語で取りまとめた。
(2)国内アンケート調査
対象国における特許無効審判の利用状況、それぞれの制度についての意見、各業界の
傾向等についてのアンケート票を作成し、企業及び大学・TLO 等計 220 箇所に送付し
(3)国内ヒアリング調査
上記(1)及び(2)の調査を踏まえ、対象国における特許無効審判の利用が多い者
や特許無効審判について意見を有している者に対して、国内ヒアリング調査を実施し、 対象国における特許無効審判制度の課題、特徴、利用状況及び改善点等についてインタ ビュー形式により調査を行った。ヒアリングの対象先は、上記(2)の調査結果から、
対象国において特許無効審判の経験がある者のうち、15者を選定した。
(4)海外ヒアリング調査
韓国でのヒアリングについては、日本又は中国での特許無効審判の利用が多い企業、
大学、弁護士・弁理士事務所等から11者を選定した。中国でのヒアリングについては、
日本又は韓国での特許無効審判の利用が多い企業、大学、弁護士・弁理士事務所等から
11者を選定した。選定に当たっては、対象国のうちできるだけ多くの国の無効審判の利
用経験がある者を優先して選択した。なお、本国以外の対象国で特許無効審判の経験を
有する者が 10 者に満たなかったため、対象国すべてに特許出願した経験を有する者を
追加した。
上記で選択された者に対して海外ヒアリング調査を実施し、対象国における特許無効
審判制度の課題、特徴、利用状況及び改善点等について調査した。
(5)統計データ及びユーザーニーズを踏まえた、日中韓における無効審判制度のあり方 に向けての基礎となる論点に関する調査分析
国内・海外でのアンケート及びヒアリングの結果を踏まえ、対象国における特許無効
1 日中韓における特許無効審判の制度比較
1.1 日本における特許無効審判に関する制度
1.1.1 審判部の構成
日本国特許庁の組織は下記の図1に示すように、総務部、審査業務部、及び特許や意
匠の審査を行う審査第1部から第4部と並列して審判部が設けられている。
図 1 日本国特許庁組織図1
1 「組織図」、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:http://www.jpo.go.jp/shoukai/soshiki/sosiki.htm (最終アクセス
審判部は、特許に関する部門が技術分野別に33部門まで設けられており、加えて、意
匠部門が1つ、商標の部門が4つ設けられている(下記表1参照)。
表 1 審判部の部門構成及び人数
部門 技術分野 部門 技術分野
第1部門 計測 第20部門 化学応用
第2部門 材料分析 第21部門 有機化学
第3部門 アミューズメント 第22部門 医薬
第4部門 自然資源、住環境 第23部門 バイオ医薬
第5部門 応用光学 第24部門 医薬品製剤
第6部門 事務機器 第25部門 生命工学
第7部門 ナノ物理 第26部門 電子商取引
第8部門 光デバイス 第27部門 インターフェイス,送配電・データ
転送
第9部門 自動制御 第28部門 情報処理
第10部門 動力機械,搬送処理 第29部門 電子デバイス
第11部門 運輸,照明 第30部門 映像システム
第12部門 一般機械,組立製造 第31部門 伝送システム
第13部門 生産機械 第32部門 情報記録
第14部門 繊維包装機械 第33部門 デジタル通信,電話システム
第15部門 福祉機器,生活機器 第34部門 意匠
第16部門 熱機器 第35部門 商標(化学・食品)
第17部門 無機化学,環境化学 第36部門 商標(機械・電気)
第18部門 素材加工,金属電気化学 第37部門 商標(雑貨繊維)
第19部門 高分子,プラスチック工学 第38部門 商標(産業役務・一般役務)
1.1.2 特許無効審判制度の概要
(1)趣旨
特許権に瑕疵がある場合、本来何人も当該発明等について実施や使用ができるにもか
かわらず、それを禁止することになり、瑕疵のある権利を存続させることで権利者に不 当な権利を与え、産業の発達を妨げるなどの弊害を発生させることがある。このような 場合には、その権利を無効とし、権利は初めから存在しなかった又は後発的理由(特許
法2第123条第1項第7号)に該当するに至った時から存在しなかったとさせる必要が
あるため、これに応じて設けられたのが無効審判制度である(第123第1項)3。
2 以下、特に断りのない場合は、本章(日本)における条文番号については「特許法」を示す。
(2)特許無効審判の流れ
特許無効審判は、特許を無効にすることを請求の趣旨とする審判請求書が審判請求人
から提出され、特許庁で受理されたことにより開始される(第131条第1項、同条第2
項、第123条第1項)。審判請求書が受理されると、審判官が指名され(第137条第1
項)、審判請求書の方式審理を経て、当該審判請求書の副本が被請求人である特許権者 に送付されるとともに、当該審判請求書に対する答弁書の提出の機会が被請求人である
特許権者に与えられる(第134条第1項)。なお、答弁書が提出されたときは、答弁書
の副本が請求人に送達される。また、特許無効審判に係る手続は、オンラインによる手 続はできず、書面で審判請求書や証拠を提出する必要がある。
被請求人は、答弁書の提出期間に訂正の請求をすることができ(第 134 条の 2 第 1
項)、これが受理されると、その訂正の許否について審理される。訂正の請求について は後述する。
審判請求書と答弁書により、当事者の主張がそれぞれ提出されると、これらに基づい
て審判請求人の請求の当否について審理する本案審理がなされる。特許無効審判の審理
の方式は、原則として口頭審理となる(第145条第1項)ため、基本的にはそのまま口
頭審理の手続へと移行する。なお、その前に審判請求人に弁駁(答弁書に対する反論) の機会を与えるか否かが判断され、弁駁の機会が必要な場合は、審判長が答弁書副本を 請求人に送達するとともに期間を指定して審判請求人に弁駁書の提出機会を与える(特
許施行規則第47条の3第1項)。なお、例外的に口頭審理とはせず、書面審理のみと
する場合は、審決をするのに熟したか否かが判断され、熟していれば審決の予告(第164
条の2第1項)がされ、又は審理を終結して審決となる。
本案審理がなされて事件が審決をするのに熟したと判断された場合、審判の請求に理
由があると認めるとき(特許を無効にすべきであると判断されたとき)、及びその他経 済産業省令で定めるときは、審判長は、当事者及び参加人に対して審決の予告を行う(第
164条の2第1項)。審決の予告後、被請求人に対して訂正の機会が与えられる(第164
条の2第2項)が、訂正請求が行われない場合は、審判長は審理を終結して審決を行う
(第157条第1項)(下記図2、図3参照)。
図 2 特許無効審判の基本的なフロー4
4 「審判便覧(第16版)51-03無効審判の四法別フロー」、第2頁、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
図 3 特許無効審判の基本的なフロー2 5
5 「審判便覧(第16版)51-03無効審判の四法別フロー」、第3頁、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
(3)特許無効審判の要件等
ア 請求人
特許無効審判の請求人適格は、利害関係人のみがこれを有する(第123条第2項)。
平成 26 年改正法により特許異議の申立て制度が創設されたことに伴い、特許無効審判
は、「何人も」から「利害関係人」のみが請求できることとなった。この「利害関係人」 とは、例えば「実際に特許権侵害で訴えられている者」、「類似の特許を有する者」、
「特許発明と同種の製品を製造する者」等が挙げられる6。
なお、特許権の権利帰属に関する無効理由(共同出願要件違反(第123条第1項第2
号、第38条)及び冒認(第123条第1項第6号))により特許無効審判を請求する場
合は、特許を受ける権利を有する者(真の権利者)に限られる(第123条第2項括弧書
き)。
イ 特許無効審判の客体
特許無効審判の対象は、行政処分としての一つの特許であり、2 以上の請求項がある
場合は、請求項ごとに特許無効審判を請求することができる(第123条第1項)。また、
特許権の消滅後でも特許無効審判の請求が可能である(第123条第3項)。
ウ 無効理由
特許無効審判の無効理由は、第123条第1項に限定列挙されており、これ以外の理由
による請求はすることができない。無効理由は以下のとおりである7。
表 2 無効理由(日本)
第123条
第1項8 無効理由
第1号 ・新規事項の追加違反(第17条の2第3項)
第2号
・外国人の権利能力違反(第25条)
・非発明(第29条第1項)
・産業上利用可能性違反(第29条第1項柱書)
・新規性違反(第29条第1項)
・進歩性違反(第29条第2項)
・拡大先願(第29条の2)
・公序良俗違反(第32条)
・共同出願要件違反(第38条)
・後願特許(第39条第1項~同4項)
第3号 ・条約違反(第123条第1項第3号)
第4号 ・明細書の記載要件違反(第36条第4項第1号)
・特許請求の範囲の記載要件違反(第36条第6項第1号~同3号)
6 特許庁総務部総務課制度審議室編「平成26年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説」、第121頁、一般社団法人発
明推進協会、2014年12月19日発行
7 無効理由の各表現は、「審判便覧(第16版) 51-04 無効審判の対象、無効事由」、日本国特許庁ウェブサイト内、
URL:http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/sinpan-binran_16.htm (最終アクセス日:2016年11月10日)に基 づく。
第5号 ・原文新規事項(第123条第1項第5号)
第6号 ・冒認出願(第123条第1項第6号)
第7号 ・後発的無効理由(事後的に外国人の権利能力欠如又は条約違反)(第123条第1
項第7号)
第8号 ・不適法訂正(第126条の訂正要件を満たさない訂正)(第123条第1項第8号)
なお、権利帰属に関する無効理由(共同出願要件違反(第 38 条)及び冒認出願(第
123条第1項第6号))については、第74条第1項の規定に基づき、正当な特許を受
ける権利を有する者が特許権者に対し移転請求をし、その特許権の移転の登録があった
ときは無効理由から除かれる(第123条第1項第2号括弧書き、同条同項第6号括弧書
き)。
無効理由の判断時期は無効理由により異なる。特許の場合、通常は出願時が基準時と
なるが、後発的無効理由(第123条第1項第7号)の場合は、特許付与後に当該無効理
由に該当するに至った時が判断時点となる9。
エ 請求時期
特許権の設定登録後、いつでも特許無効審判を請求することができる。なお、特許権
の消滅後であっても請求は可能である(第123条第1項、同条第3項)。
オ 特許無効審判にかかる手続
特許無効審判を請求するには、審判請求人は、審判請求書を特許庁長官に提出する(第
123条第1項、第131条第1項)。審判請求書には、「当事者及び代理人の氏名又は名
称及び住所又は居所」(第131条第1項第1号)、「審判事件の表示」(同条同項第2
号)、及び「請求の趣旨及びその理由」(同条同項第3号)を記載しなければならない
(第131条第1項柱書)。「請求の趣旨」とは、審判請求人がどのような審決を求める
かの要求であり、例えば、審判請求書において「特許第◯◯◯号の特許を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」といった記載である10。
また、特許無効審判を請求する場合には、請求の理由において、「特許を無効にする
根拠となる事実を具体的に特定し、かつ、立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載
したものでなければならない」(第131条第2項)とされている。
なお、証拠の提出ができるのは、原則として、審理の終結時までである。審理の終結
後も証拠の提出の申出は可能であるが、この申出が採用される場合、審理を再開し、相
手方に答弁又はその答弁に関する証拠提出の機会が与えられる(特許法施行規則第 47
条の2第1項。同47条の3第1項)11。
9 「審判便覧(第16版) 51-04 無効審判の対象、無効事由」、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan-binran_16/51-04.pdf (最終アクセス日:2016年11月10日)。
10 「審判便覧(第16版) 51-07 無効審判の請求書」、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan-binran_16/51-07.pdf (最終アクセス日:2016年11月10日)。
11 「審判便覧(第16版) 34-01 証拠提出に関する処理の点検と注意事項」、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
審判請求書の補正は、原則として、その要旨を変更することができない(第132条の
2第1項柱書)が、特許無効審判においては、いくつかの例外がある。
第1に、審判請求書が方式要件(第131条第1項)を満たしておらず、補正を命じら
れた場合において、その補正が命じられた事項についての要旨変更補正は認められる(第
131条の2第1項第3号)。
第2に、特許無効審判中に訂正の請求があった場合、その訂正により請求の理由を補
正する必要が生じたとき(第131条の2第2項第1号)、第3に補正に係る請求の理由
を審判請求時の請求書に記載しなかったことについて合理的な理由があり、かつ被請求
人がその補正に同意した場合(第131条の2第2項第2号)に認められる。なお、第2
及び第3の場合は、補正をすることが審理を不当に遅延させる目的ではないことが明ら
かであり、審判長の許可があった場合に限られる(第131条の2第2項、第131条の2
第1項第2号)。 (4)審決の効果について
特許を無効とする審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかったものと
みなされる(第125条)。なお、後発的無効理由(第123条第1項第7号)により特許
無効審決が確定した場合は、その理由に該当するに至ったときから特許権が存在しなか
ったものと見なされる(第125条但書)。
審決が確定した場合、その審判の当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に
基づいて審判を請求することができない(第167条)。なお、この一事不再理について
は、平成23年の一部改正前は、「何人も」の文言により、審決の効力が審判に関与して
いなかった第三者にも及ぶとされていたが、改正により「何人も」の文言が削除され、 審決の第三者効は廃止された。
また、審決の効力の範囲は、特許無効審判が請求された範囲となる。例えば、特許無
効審判が請求項ごとに請求された場合は、請求された請求項ごととなる。ただし、特許 無効審判が請求項ごとに請求され、かつ訂正の請求が一群の請求項(後述)ごとにされ
た場合は、審決の効力の範囲は当該一群の請求項ごととなる(第167条の2第1項第1
号)。
1.1.3 訂正の請求について
(1)請求の主体と時期
訂正の請求は特許付与後において瑕疵のある部分を自発的に事前に取り除くことを可
能にした制度である。特許無効審判の被請求人(特許権者)は、特許無効審判中に特定 の指定期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求す
訂正の請求ができる期間は以下のとおりである12。
① 特許無効審判の請求書副本の送達に伴う答弁書提出期間(第134条第1項)
② 審判請求書の請求の理由について、要旨変更補正が許可された場合における、当該
審判請求書に対する手続補正書の副本送達後の答弁書提出期間(第134条第2項)
③ 審決取消訴訟において権利維持審決が判決により取り消されたときに、当該判決
の確定の日から1週間以内に権利者の求めに応じて行う訂正の請求のための指定期
間(第134条の3)
④ 職権審理により当事者又は参加人が申し立てない理由についてされた無効理由通
知に対する意見書提出期間(第153条第2項)
⑤ 審決の予告に対する訂正の請求のための指定期間(第164条の2第2項)
(2)訂正の請求の対象
訂正の請求の対象は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面である(第134
条の2第1項)。なお、訂正の請求は、2以上の請求項に係る特許請求の範囲について
訂正の請求を行う場合は、特許全体に対して請求することも、請求項ごとにすることも
できる(第134条の2第2項)が、特許無効審判が請求項ごとに請求された場合は、請
求項ごとに訂正の請求をしなければならない(第134条の2第2項但書)。なお、特許
無効審判で請求されていない請求項や明細書等に関しても訂正の請求をすることがで きる。
また、訂正に係る請求項が他の請求項と引用関係にある場合は、その関係を有する一
群の請求項ごとに訂正の請求をしなければならない(第134条の2第3項)。
ここで、「一群の請求項」とは、審判の対象となる「当該請求項の中に一の請求項の
記載を他の請求項が引用する関係その他経済産業省令で定める関係を有する一群の請
求項」(第120条の5第4項)をいい、「経済産業省令で定める関係」とは、「一の請
求項の記載を他の請求項が引用する関係が、当該関係に含まれる請求項を介して他の一 の請求項の記載を他の請求項が引用する関係と一体として特許請求の範囲の全部又は 一部を形成するように連関している関係をいう。」と定義されている(特許法施行規則 第46条の2)。例えば、複数ある請求項のうち、従属関係にある請求項について訂正の 請求を行う場合、その従属関係を有する請求項が「一群の請求項」となり、訂正の請求 を行う際の一つの単位となる。なお、請求項の数が一つのみの場合は、特許権全体に対
して訂正の請求を行う13。
12 「審判便覧(第16版) 51-11特許権者による訂正の請求(特、旧実)」、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan-binran_16/51-11.pdf (最終アクセス日:2016年11月10日)。
13 「審判便覧(第16版) 38-01 訂正の請求単位と一群の請求項」、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
(3)訂正の目的
訂正の目的は、下記の目的に限定されている。
① 特許請求の範囲の減縮(第134の2第1項但書第1号)
② 誤記又は誤訳の訂正(第134の2第1項但書第2号)
③ 明瞭でない記載の釈明(第134の2第1項但書第3号)
④ 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しない
ものとすること(第134の2第1項但書第4号)。
上記④は、平成 23 年一部改正で新たに設けられたものであり、訂正の請求を一群の
請求項ごとにしなければならないとされたことに伴い、特許無効審判の請求に係る請求 項に従属する請求項が訂正の請求の対象とはならない場合、その従属関係を解消するた めの訂正が認められるようになった。
(4)訂正が認められる要件
訂正が認められるための要件は以下のとおりである14。
① 訂正の目的が第134の2第1項但書各号に該当するものであること。
② 新規事項を追加する訂正でないこと(第134条の2第9項で準用する第126条第
5項)。
③ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないこと(第134条の2第
9項で準用する第126条第6項)。
④ 訂正後の特許請求の範囲に記載されている発明が、独立特許要件を満たすもので
あること。ただし、特許無効審判の請求がされている請求項は除く(第134条の2
第9項で読み替えて準用する第126条第7項)。
(5)訂正の請求の手続
訂正の請求は訂正請求書の提出により行われ(第134条の2第9項で準用する第131
条第1項)、まず方式審理が行われる。訂正の請求では、訂正請求書における請求の趣
旨及びその理由は、経済産業省令で定めるところにより記載したものでなければならず
(第134条の2第9項で準用する第131条第3項)、訂正した明細書、特許請求の範
囲又は図面を請求書に添付しなければならない(第134条の2第9項で準用する第131
条第4項)。
14 「審判便覧(第16版)38-03訂正要件」、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
訂正請求書が審判長に受理されると方式審理が行われ、審判長は、訂正請求書が方式
に違反している場合は、補正をするよう命じなければならない(第134条の2第9項で
準用する第133条第1項)。
方式審理後、訂正要件を満たすか否かについて審理されるが、訂正要件違反が発見さ
れた場合、訂正拒絶理由通知が特許無効審判の請求人及び被請求人(特許権者)に送達
される(第134条の2第5項)。特許権者は、意見書や補正書により対応し、また、審
判請求人も意見書を提出することができる(第134条の2第5項、第17条の5第1項、
第17条第1項)。訂正請求書に瑕疵が無い場合又は瑕疵が治癒された場合は、訂正後
の特許請求の範囲に基づいて特許無効審判の審理がなされる。訂正が認められなかった 場合、訂正前の特許について特許無効審判の審理がなされる。
なお、訂正の請求において、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範
囲又は訂正図面について補正ができるのは以下の場合に限られる(第 134 条の 2 第 7
項、第17条の5第2項)
① 審判請求後の最初の答弁書提出期間(第134条第1項)
② 審判請求書の補正があった場合の答弁書提出期間(第134条第2項)
③ 訂正の請求手続中の訂正要件に関する審理において、訂正拒絶理由通知に対する
意見書提出期間(第134条の2第5項)
④ 審決取消訴訟において権利維持審決が判決により取り消されたときに、当該判決
の確定の日から1週間以内に権利者の求めに応じて行う訂正の請求のための指定期
間(第134条の3)
⑤ 職権審理により当事者が申し立てない理由についての審理結果を通知したときの
意見書提出期間(第153条第2項)
図 4 訂正の請求のフロー15(最初の答弁書提出期間の場合)
1.1.4 口頭審理について
特許無効審判における審理の方法は、原則として口頭審理である(第145条第1項)。
口頭審理は、書面のみによる陳述では十分に言い尽くせない当事者の主張を補い、技術水
準に対する十分な認識や争点の的確な把握に有用な審理の方式である16。特許無効審判は
民事訴訟とは異なり、書面で提出されたものはすべて陳述されたこととして扱われ17、職
権で審理を行うことができ、当事者が申し立てない理由であっても審理することができる
(第152条、第153条第1項)。
15 「審判便覧(第16版) 51-03 無効審判の四法別フロー」、図1-1及び図4に基づいて作成した。日本国特許庁ウェブ
サイト内、URL:http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/sinpan-binran_16.htm (最終アクセス日:2016年11月
10日)
16 特許庁審判部、「口頭審理実務ガイド」、第1頁、平成27年10月、特許庁ウェブサイト内、URL:
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/koutou_shinri.htm (最終アクセス日:2016年11月7日)
17 前掲脚注15参照、第4頁
訂正の請求
方式審理
訂正要件の審理
訂正要件を 満たすか 訂正拒絶理由通知
訂正拒絶理由通知
訂正後の特許に ついて審理
意見書・補正書 意見書
訂正前の特許に ついて審理
訂正要件 違反解消? 訂正請求書副本送達
(答弁書副本送達)
特許庁 審判請求人
特許権者
Yes
No
(1)全体の流れ
口頭審理は、当事者の主張・立証が揃った段階で行われるのが一般的であり、審判請
求書及び被請求人からの答弁書、必要があれば弁駁書が揃った段階で行われる。口頭審 理は、まず、期日の調整が行われ、期日と場所が決定されると、期日が記載された審理 事項通知書(後述)が審判請求人と被請求人の双方に送付される。このとき、口頭審理 陳述要領書(後述)の提出が求められる場合がある。口頭審理陳述要領書の提出は、通
常、口頭審理の期日の1又は2週間前に設定され、口頭審理陳述要領書が提出されると、
相手方にファクシミリ送信される。
口頭審理では、当事者による陳述、審判長による尋問、証拠調べなどが行われ、場合
により告知が行われる。この告知は、例えば、次回の口頭審理の期日や、審理終結通知、 答弁・弁駁の指令、無効理由通知、訂正拒絶理由通知等がある。
口頭審理が行われると、口頭審理調書が作成される。口頭審理調書は、審判書記官が
期日ごとに作成し、事件番号等の形式的記載事項とともに、陳述者と陳述の内容の要点 が簡潔に記録される。口頭審理で審判長が記録すべき事項として述べた場合は、その事 項は調書として記録される。調書が作成されると、その調書の写しが当事者にファクシ ミリで送付される。
(2)審理事項通知書
審理事項通知書は、「合議体が口頭審理期日に予定している審理事項を期日前に当事
者に伝え」るためのものであり、口頭審理の期日の調整が終了後、その決定された期日 を記載した審理事項通知書が当事者に送付される。これは、口頭審理の審理内容を当事 者に伝えることにより、これを踏まえた準備を当事者に促し、口頭審理を円滑に行い、 審決に必要な資料を収集することを目的とする。この審理事項通知書には、その時点に おける審判官合議体の暫定的な見解が記載され、必要に応じて当事者に対する意見や技
術説明の求めが記載される18。また、当事者に口頭審理陳述要領書の提出を促す。
(3)口頭審理陳述要領書
口頭審理陳述要領書(特許法施行規則第51条)は、「事実関係が複雑多岐にわたる時
でも、当事者の陳述とその聴取を脱落なく確実に行い、さらに陳述における精緻な理論
構成を可能とし、口頭審理を効率よく行うため」19のものであり、通常は、口頭審理の期
日の1から2週間前までに提出することが当事者に求められる。なお、審判請求書は答
18 「審判便覧(第16版) 33-08 審理事項通知書」、第1頁、第2頁、特許庁ウェブサイト内、URL:
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan-binran_16/33-08.pdf (最終アクセス日:2016年11月10日)
19 「審判便覧(第16版)33-07 口頭審理陳述要領書」第1頁、特許庁ウェブサイト内、URL:
弁書等の提出書類において、適切かつ明確に記載されている場合は、口頭審理陳述要領
書を提出しなくてもよいとされている20。
(4)口頭審理の内容
口頭審理では、審判長や陪席審判官が、事実上又は法律上の事項に関して当事者又は
参加人に質問を行い、又は立証を促し(特許法施行規則第52条の2)、必要があれば、
証拠調べや証人尋問などが行われる。なお、特許無効審判では、民事訴訟とは異なり、 審判請求書や答弁書等の書面で提出された事項は、口頭審理において実際に陳述されて
いなくても、すべて審判において有効に陳述されたものとして扱われる21。
(5)調書
口頭審理を行った場合は、期日ごとに口頭審理調書が作成される。口頭審理調書には、
日時や当日の出頭者、審判合議体等の形式的記載事項とともに、審理の要旨やその他必 要な事項が記載される。
1.1.5 特許無効審判から裁判までの流れ
特許無効審判の結果に不服がある場合、特許無効審判の当事者、参加人及び参加を申請
して拒否された者は、審決又は決定の謄本の送達があった日から 30 日以内に、東京高等
裁判所に審決取消訴訟を提起することができる(第178条第2項、同条第3項)。
審決取消訴訟は、特許庁の管轄ではなく、裁判所で行われるものであるので、審決取消 訴訟の手続は、民事訴訟法及び民事訴訟規則等に基づいて行われる。
裁判所は、審決の結果について訴えの提起があったときは、その請求に理由があると認
めるときは、審決又は決定を取り消さなければならない(第181条第1項)。一方で、請
求に理由がないと認める場合は、当該訴えは棄却される。
審決取消訴訟において、請求に理由がある(審決に違法性がある)と認める場合は、審 決を取り消す旨の判決がなされる。そうすると、当該特許無効審判は、審決が取り消され
たため、特許庁に差し戻され、さらに審理される(第181条第2項)。差し戻しとなった
場合、先に行われた審決取消訴訟の判決は、当該事件について特許庁を拘束するため、判 決の結論とその結論の導出に必要な事実認定及び法律判断として判決理由中に記載された
事項にしたがって、再度の審決を行う22。
20 前掲脚注18参照、第1頁
21 「審判便覧(第16版)33-00口頭審理方式」第1頁、特許庁ウェブサイト内、URL:
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan-binran_16/33-00.pdf (最終アクセス日:2016年11月10日)
22 「審判便覧(第16版) 51-21無効審判審決後の手続」、日本国特許庁ウェブサイト内、URL:
1.2 中国における専利無効宣告請求(特許無効審判)に関する制度
1.2.1 審判部の構成
中国では、日本でいう特許、実用新案及び意匠にあたる専利、実用新型及び外観設計は、
専利法で規定されており、これらの出願(専利出願)は国家知識産権局(SIPO23)が管轄
する。復審(日本でいう拒絶査定不服審判)や専利無効宣告請求(日本でいう特許・実用 審判及び意匠の無効審判)は、国家知識産権局復審委員会(以下、「専利復審委員会」と
表記する。)が担当する。この専利復審委員会は、国家知識産権局により1984年11月に
設立され、国務院専利行政部門(SIPO)が指定する技術専門家と法律専門家から構成され、
専利復審委員会のトップである主任委員(図5参照)は国務院専利行政部門の責任者が兼
任する。専利復審委員会は23の部門を有し、そのうち14部門が専利と実用新型(特許と
実用新案)を担当し、1部門が外観設計(意匠)を担当する。専利復審委員会の構成員(審
判官とスタッフ含む)は2014年末において330人であり24、各部門の構成は、表2に示
すようになっている。
図 5 専利復審委員会の組織 25
23 SIPO:the State Intellectual Property Office of P.R.C.
24 「人员情况」、専利復審委員会ウェブサイト内、URL: http://www.sipo-reexam.gov.cn/zwgk/fsgk/ryqk/index.htm
(最終アクセス日:2016年11月10日)
25 「组织结构图」、専利復審委員会ウェブサイト内、URL: http://www.sipo-reexam.gov.cn/zwgk/fsgk/zzjg/index.htm
表 3 専利復審委員会の部門及び人数 26
部門 人数 部門 人数
弁公室 11 通信復審第2部 4
党委(紀委)弁公室 2 医薬生物復審第1部 4
人事教育部 6 医薬生物復審第2部 4
審理業務協調部 6 化学復審第1部 4
研究部 6 化学復審第2部 4
情報化部 4 光電技術復審第1部 4
立案・システム管理部 12 光電技術復審第2部 4
機械復審第1部 4 材料工程復審第1部 4
機械復審第2部 4 材料工程復審第2部 4
電気復審第1部 4 外観設計復審部 4
電気復審第2部 4 行政訴訟部 4
通信復審第1部 4
1.2.2 専利無効宣告請求制度の概要
(1)概要及び根拠条文等
専利無効宣告請求は、専利権付与後の専利27について、請求によりその専利権を無効
にすることができる制度であり、専利法第45条から第47条に規定されている。専利無
効宣告請求は、専利権が付与されて公告された日から請求することができ、いかなる企
業等の団体又は個人でも請求することができる(専利法第45条)。そして、専利復審委
員会が専利権を無効にすべきと決定した場合、当該専利権は、初めから存在しなかった
ものとみなされる(専利法第47条)。
(2)専利無効宣告請求制度の流れ
専利無効宣告請求は、専利登録の公告後にいかなる団体や個人でも請求することがで
き(専利法第45条)、専利権が満了又は放棄された後でも請求は可能である(専利審査
指南第4部分第3章3.1)。専利無効宣告請求が受理されると、専利復審委員会は形式 審査を行い、提出された無効宣告請求書及び添付資料が所定の様式に合致するかを審査 し、様式に合致しない場合は、専利復審委員会は請求人に補正命令を行う。指定した期
間内に請求人が補正をしない場合又は 2 回補正しても同じ欠陥が是正されない場合は、
当該専利無効宣告請求は提出されていなかったものとみなされる(専利審査指南第4部
分第3章3.4)。
26 前掲脚注25参照
専利復審委員会は専利権無効の宣告請求に対し、適時審査及び決定を行い、かつ請求 人及び特許権者に通知する。専利権者は、専利復審委員会が審査の決定を下すまでであ って所定の状況にある場合、権利要求書の補正をすることができる(日本でいう特許請 求の範囲の訂正にあたる。当該補正については後述する)。審査を経て専利権の無効宣 告が決定された場合、国務院専利行政部門が登記及び公告を行う。専利復審委員会の専
利権無効宣告又は専利権維持の決定に対して不服である場合、通知を受領した日から 3
月以内に人民法院に訴訟を提起することができる。人民法院は専利無効宣告請求手続を
行った相手方当事者に、第三者として訴訟に参加するよう通知する(専利法第46条)。
なお、無効宣告された特許権は初めから存在しなかったものと見なされる(専利法第47
条)。
図 6 専利無効宣告請求の流れ
無効宣告請求
形式審査
補正通知書 形 式 要 件
の不備
補正(15日以内)
受理
口頭審理通知書 無効宣告請求みなし
未提出通知書
専利復審委員会
審判請求人
専利権者
Yes
No
Yes
不備解消?
口頭審理
無効宣告請求 審査決定 無効宣告請求
受理通知書
請求書副本
答弁書
権利要求書の補正
(3)専利無効宣告請求の要件等
ア 請求人
「いかなる部門又は個人」でも請求が可能である(専利法第45条第1項)。なお、こ
の「個人」には、専利権者及び発明者本人も含まれる28。
イ 専利無効宣告請求の客体
専利無効宣告請求の対象は、「授権された専利」であり、終了又は放棄されたものも
含む(専利法第45条第1項、専利審査指南第4部分第3章3.1)。
ウ 無効理由
専利無効宣告請求の理由は、専利法実施細則で規定されており、専利法実施細則の第
65条第2項で規定された理由に限定される(専利審査指南第4部分第3章3.3 (2))。
ここで規定されている無効理由は下記に示すとおりである。
表 4 無効理由一覧
専利法実施細則
第65条第2項に
掲げる条文
無効理由
第2条 保護適格性違反
第20条第1項 秘密保持審査違反(中国国内で完成した発明について外国で特許を出願す
る場合、事前に秘密保持審査を受けなければならない)
第22条 発明及び実用新型の新規性、創造性及び実用性違反
第23条 外観設計(意匠)の新規性、創造性及び他者先行権利との非抵触違反
第26条第3項 説明書(日本でいう「明細書」)の記載要件(公開十分要件)違反
第26条第4項 権利要求書(日本でいう「特許請求の範囲」)の記載要件(サポート要件、
明確性要件)違反
第27条第2項 意匠図面の記載要件違反
第33条 新規事項追加違反
専利法実施細則
第20条第2項 従属クレームの記載要件違反
専利法実施細則
第43条第1項 分割出願時における新規事項追加違反
専利法第5条 公序良俗違反
専利法第25条 不特許事由
専利法第9条 後願特許
エ 請求時期
専利が既に公告されている場合において、既に終止又は放棄(出願日からの放棄を除
く)されている場合を含め、専利無効宣告請求をすることができる(専利審査指南第 4
部分第3章3.1)。
28 何騰雲「中国における権利化阻止手続と権利無効手続(特集現地代理人に聞く、権利化阻止及び無効化について)」パ
オ 専利無効宣告請求に係る手続
専利無効宣告請求をするには、請求人は、専利復審委員会に無効宣告請求書及び必要
な証拠を提出することにより行う(専利法実施細則第65条第1項)。なお、審判請求
の手続は、オンラインで行うことが可能である。オンラインで手続を行う場合は、オン ライン用の書式で請求する必要がある。
無効宣告請求書には、無効宣告請求の範囲と請求の理由を記載しなければならない。
無効宣告請求の範囲は明確にされていなければならず、明確でない場合は、専利復審委
員会により所定の期間内に補正するよう求められる(専利審査指南第4部分第3章3.3
(1))。また、請求の理由には、「提出したすべての証拠を組み合わせて無効宣告請求の 理由を具体的に説明し、また各理由の根拠となる証拠を指摘しなければなら」(専利法
実施細則第65条第1項)ず、具体的には、専利法実施細則第65条第2項で規定する理
由について、「専利法及びその実施細則において関連する条文、項、号をもって独立し
ている理由として提出しなければならない」(専利審査指南第4部分第3章3.3 (2))。
また、証拠を提出する場合は、提出したすべての証拠について具体的に説明しなけれ
ばならない(専利審査指南第4部分第3章3.3 (5))。この「具体的に説明」とは、専利
審査指南には、「技術方案を比較する必要のある発明又は実用新案の専利について、係 争専利及び引例文献にある関連技術方案を具体的に描写し、比較分析を行わなければな
らない」と記載されている(専利審査指南第4部分第3章3.3 (5))。
なお、無効宣告の理由が具体的に説明されていない場合、当該請求は受理されない(専
利法実施細則第66条1項)。
無効宣告請求書及び添付資料について、所定の書式に合致しない場合は、期間を指定
して補正をするよう求められる(専利法実施細則第 66条第4項)。なお指定された期
間内の補正がされなかった場合又は、2 回補正してもなお同じ欠陥がある場合は、無効
宣告請求書は提出されていなかったものとみなされる(専利法実施細則第66条第4項、
専利審査指南第4部分第3章3.4)。
無効宣告請求書が形式審査において専利法その他の規定に合致すると判断された場合、
専利復審委員会は、請求人と専利権者に無効宣告請求受理通知書を発行するとともに、 無効宣告請求書及び関連書類の副本を専利権者に送付する。また、このとき、専利権者 に答弁書提出の機会が与えられる。答弁書の提出期間は、専利権者が無効宣告請求受理
通知書を受け取った日から1か月である(専利審査指南第4部分第3章3.7 (3))。
ここで、無効宣告請求書の請求の理由及び証拠については、請求人は、専利復審委員
会が請求書を受理してから起算して1か月以内に理由の追加及び証拠の補充をすること
ができる(専利法実施細則第67条)。追加する理由や証拠について具体的に説明されて
いない場合や、当該期限を過ぎて理由の追加や証拠の補充がされた場合、専利復審委員
審査指南第4部分第3章4.2 (1)、同章4.3.1(1))。理由の追加や証拠の補充がなされた
場合、専利権利者にはさらに1か月の答弁書提出期間が与えられる。
なお、専利無効宣告請求の審理手続において、専利復審委員会が指定した期間は延長
することができない(専利法実施細則第71条)。
(5)審決の効果について
無効宣告された専利権は、初めから存在しなかったものとみなされる。なお、この無
効宣告は、当該無効宣告の前に人民法院が決定し、かつ既に執行された専利権侵害の判 決、調停書、既に履行又は強制執行された侵害紛争の処理決定及び既に履行された実施
権の許諾契約又は専利権の譲渡契約に対しては、遡及しない(専利法第47条第2項)。
また、専利復審委員会が無効宣告の決定をしたのち、同様の理由と証拠によって専利
無効宣告請求をすることはできない(一事不再理、専利法実施細則第66条第2項)が、
提出された理由や証拠のうち時限などの理由により決定で考慮されなかったものは除か
れる(専利審査指南第4部分第3章3.3 (3))。
また、2016年4月1日に施行された《最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争
案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)》の第2条では、『権利者
が専利権侵害訴訟において主張する請求項につき、専利復審委員会により無効の決定が 下された場合、専利権侵害紛争事件を審理する人民法院は、当該無効となった請求項に 基づく権利者の訴えを却下する裁定を下すことができる。』と規定している。
1.2.3 専利無効宣告手続における専利書類の補正(訂正)について
(1)請求の主体と時期
専利権者は、発明専利又は実用新型の専利無効宣告請求の審理過程において、権利要
求書の補正をすることができる(専利法実施細則第69条第1項)。
権利要求書の補正は、請求項又は請求項に含まれる技術方案の削除については、専利
復審委員会が決定を下すまですることができる。請求項の併合の形式で補正をする場合 は、専利復審委員会が決定を行うまでであって以下の状況の答弁書提出期間に限り、権
利要求書の補正をすることができる(専利審査指南第4部分第3章4.6.3)。
① 無効宣告請求書に対する答弁書提出期間
② 請求人が追加した無効宣告事由又は補充した証拠に対する答弁書提出期間
③ 専利復審委員会が引用した、請求人が言及していない無効宣告事由又は証拠に対